【ワーキングメモリは鍛えられる?】トレーニングより大切な3つの工夫

「うちの子、ワーキングメモリが弱いみたい。鍛える方法はないだろうか?」お子さんの苦手さに気づいた保護者の方が、次に気になるのは、ここではないでしょうか。

結論から言えば、ワーキングメモリは「鍛えれば、別人のようにぐんぐん伸びる」という性質のものではありません。ただし、苦手さによる困りごとは、工夫しだいで確実に減らしていけます。この記事では、「ワーキングメモリは鍛えられるのか?」という問いに対する現実的な見方と、家庭や個別指導でできる関わり方のポイントをお伝えします。

ワーキングメモリは「鍛えれば伸びる」のか?

ワーキングメモリのトレーニング教材や、ゲーム・アプリの類は、世の中にたくさん出ています。「短期間でワーキングメモリが伸びる」とうたうものもあります。

ただ、専門家の間でも、ワーキングメモリそのものがトレーニングで鍛えられるかどうかについては、懐疑的な見方が多いのが現状です。「これをやれば必ずワーキングメモリが伸びる」と断言できる方法は、今のところないと考えておくのが現実的でしょう。ただし、これは決して悲観的な話ではありません。ワーキングメモリそのものを大きく伸ばすのは難しくても、「ワーキングメモリの弱さによる困りごと」は、確実に減らせるからです。むしろ、そちらの方が現実的な支援としては効果が大きいのです。

「直接鍛える」より大切な3つの工夫

ここからが、家庭でも個別指導でも、実際に効果が出やすい話です。ワーキングメモリへの直接的なトレーニングよりも、次の3つの工夫の方が、子どもの生活や学習を確実に楽にしてくれます。

工夫①:覚えておかなくて済む環境を作る

一番即効性が高いのが、「そもそも頭で覚えておかなくていい状態」を整えてあげることです。

  • 持ち物リストを目に見えるところに貼る
  • やることを書いたメモを手元に置く
  • 計算の途中式を、省略せずに書かせる
  • 指示は、口頭だけでなく文字や図でも残してあげる

ワーキングメモリは「作業スペースの広さ」のようなものなので、そこに乗せる荷物を減らしてあげれば、その分余裕が生まれます。子どもが本当にがんばるべきことに、頭を使えるようになります。「環境に頼るだけで、子どもの成長ではない」と違和感をもつ人もいるかもしれませんが、まずは日常の困り感を軽減してあげるという視点でもあります。

また、簡単ではありませんが上手に導いてあげれば、工夫の仕方を学ばせることによって、自分が困らないように「進んで工夫をしようとする子」を育てられるものですよ。もし自分からメモを取るような姿が見られたら、大いに褒めてあげてください。

工夫②:一度に求める量を減らす

「教科書の◯ページを開いて、△番をやって、終わったらノートを持って並んでください」…こうした複数の指示は、ワーキングメモリが弱い子には負荷が大きすぎます。

  • 指示は、できるだけ一つずつ
  • 課題は、小さく区切って渡す
  • 終わったら次、というステップ形式に

これは段階的に学習させていくステップであり、「甘やかし」ではありません。子どもが処理しきれる量に調整してあげることで、結果的に「最後までやり遂げる成功体験」が積み重なります。その成功体験は、子どもの自信と意欲を育てます。

自分の持ち物をいつもの場所に片付けるなど、毎日のルーティンになっているようなことは、次第に学習して指示がなくてもできるようになっていきます。定着して、スムーズにできるようになってきたら、そのぶんワーキングメモリにゆとりができるので、それからもう少し負荷を増やしてあげるのが良いです。

工夫③:繰り返して「慣れ」を作る

これが、長い目で見ていちばん効果のある方法かもしれません。人間の脳には、繰り返し行う作業を「考えなくてもできるレベル」まで自動化する仕組みがあります。何度も繰り返して慣れてくると、そのぶんワーキングメモリへの負担は確実に減っていきます。

たとえば「うちの旦那は料理ができない」といった話はよく聞きますが、毎日料理をする奥さんと、月に一回しか担当しない旦那さんとで、慣れに差があるのは自然なことです。一つひとつの手順を一生懸命考えながらやっているうちは、誰にとっても負担が大きいものです。

算数の計算も、これと同じです。何度も解いて、手順が体に染み込んでくると、「考えなくてもできる」状態になり、ワーキングメモリの負担が下がっていきます。「慣れるまではミスが多くて当たり前」という前提に立って、根気よく付き合ってあげることが大切です。

「鍛える」発想から「補う」発想へ

これまで見てきたように、ワーキングメモリへの支援は「直接鍛える」よりも、「補う・環境を整える・慣れさせる」という発想の方が、ずっと実用的です。

保護者の方からすると、「鍛えて、なおしてあげたい」という気持ちは自然なものだと思います。けれども、その気持ちが強すぎると、つい子どもに無理をさせてしまったり、結果が出ないことに焦りを感じてしまったりします。

「特性をなおす」のではなく、「特性に合わせて、その子が暮らしやすく・学びやすくなる工夫をする」。この発想の転換は、子どもにとっても、関わる大人にとっても、毎日をぐっと楽にしてくれます。ちょっとした環境設定によって生活上の困り感が減ると、周囲の大人にも心のゆとりができることがよくあります。叱る場面が減り、褒める場面が増えることで、結果的に子どもの成長速度が上がるようなケースもたくさんありますよ。

それでも気になる場合は

もちろん、家庭での工夫だけでは抱えきれない悩みが出てくることもあると思います。

  • 工夫しても、生活や学習に大きな困難が続く
  • 子ども自身が、強いストレスを感じている
  • 学校生活や友達関係にも支障が出ている

こうした場合は、抱え込まずに、専門機関に相談するのも大切な選択肢です。発達相談の窓口、小児科、スクールカウンセラー、療育機関など、地域には子どもの相談に応じてくれる場所があります。

私自身も過去には児童発達支援に携わっておりましたが、「専門家に相談する=大ごとにする」ではなく、「お子さんに合った関わり方のヒントをもらう」くらいの気持ちで、気軽に活用してよい場所です。自治体の福祉課が案内してくれることもありますよ。

まとめ

ワーキングメモリは、「鍛えれば伸びる」とは言い切れません。でも、その苦手さによる困りごとは、工夫しだいで確実に減らしていけます。

  • 覚えておかなくて済む環境を作る
  • 一度に求める量を減らす
  • 繰り返して「慣れ」を作る

この3つを意識するだけでも、大きく改善できるお子さんがたくさんいるはずです。

背が高い子もいれば、低い子もいますよね? ワーキングメモリの得意さや苦手さも、そんな個性の一つだと私は考えています。この記事が、少しでもお役に立てば幸いです。

タイトルとURLをコピーしました